毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなどさまざまな感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今回は「自分たちで起こした小さな風」について。あなたはどのように観ましたか?
田中ひかる著『明治のナイチンゲール大関和物語』(中央公論新社)を原案とするオリジナル作品で、見上愛、上坂樹里がW主演を務めるNHK連続テレビ小説『風、薫る』。第23週「歩々清風」は、看護という仕事が社会に根付いていく過程で起こる、さまざまな問題を描いた。
ある日、戦地から戻った虎太郎(小林虎之介)がりん(見上愛)のもとを訪ねてくる。カラスの鳴き声にも体をすくませる彼は、それでも「自分がいたのはずっと後方だから」と笑ってみせる。体のほうは戦場を覚えているのに、本人はそれを自分の傷だと思っていない。薬も包帯もいくらあっても足りず、笑えるくらい無力だったと虎太郎は振り返り、死んでいく兵隊と自分の何が違うのか、人の生き死になどくじ引きのようなものだとつぶやく。
学のなさを努力で埋め、上へ行くことだけを目当てにしてきた男が、努力では動かせないものに行き当たった。そんな彼に、りんは「お帰り、虎太郎」と声をかける。戦地から帰ってきたことへの言葉であり、昔のまま変わらぬ虎太郎が帰ってきたことへの言葉でもあるだろう。しかし、ただ上を目指し続けてきた本人にとって、ここからどんなモチベーションで生きれば良いのかわからない状況下で、残酷な言葉でもある。
また別の日、捨松(多部未華子)が恵風看護婦会を訪ねてくる。日清戦争を経て、看護婦がようやく広く知られた。「思わぬほうから風は吹くものね」と捨松は言い、これからの看護婦を託す。りんと直美は、この風を自分たちで大きくしていくと応える。